──Mrs. GREEN APPLE「クスシキ」歌詞レビュー
Mrs. GREEN APPLEが描き出す楽曲の中でも、「クスシキ」はひときわ文学的な色彩と哲学的な奥行きを持つ一曲だ。
タイトルの「クスシキ(奇しき/薬識)」という言葉は多義的で、神秘と治癒、不可解さと救済を同時に想起させる。
歌詞はその名のとおり、不確かで感情に満ちた世界を、柔らかな言葉と鋭い比喩で紡いでいる。
言葉の力と“まほろば”の存在
冒頭、「摩訶不思議だ/言霊は誠か」。
主人公のつぶやきは、日本古来の“言霊信仰”を想起させる。
一方で、「偽ってる彼奴は/天に堕ちていった」と続ける皮肉混じりの言い回しには、善悪のあいまいさと、信じることの不確かさがにじむ。
そして登場する「まほろば」という言葉は、理想郷や平和な土地を意味する日本古語。
そこに「あなたが居る」だけで生の痛みを感じる、という逆説的な表現を重ねることで、「まほろば」の存在すら、単なる癒しではなく、感情の揺らぎと葛藤を象徴する場として描いている。
「愛」と「ごめんね」の距離感が照らす関係性
「愛してるとごめんねの差って/まるで月と太陽ね」という一節は、言葉の温度差や、感情のすれ違いを美しい比喩で表現している。
これに続く「何一つ学びやしない魂も」という自嘲的なラインは、成長を拒むわけではなく、ただ不器用に日々を繰り返す“人間らしさ”の象徴とも言えるだろう。
さらに「また呑んだ言葉が芽を出して/身体の中にずっと残れば」という一節では、飲み込んだ感情がやがて心身に影響を与える様を、そして無意識の重さを巧みに表している。
“ひとりじゃない”と“ひとりの夜”の共存
終盤にかけて登場する「石になった貴方の歌」や「病になった私の歌」という言葉には、死や喪失、精神的な痛みが色濃く投影されている。
しかし、それを「口ずさんで歩こう」「笑おう」とする姿勢には、
悲しみを抱きしめながらも前を向こうとする希望が感じられる。
ラストの「愛してるよ/ごめんね/じゃあね/まるで夜の太陽ね」という歌詞は、「夜の太陽」という矛盾をはらんだ組み合わせで、言葉にできない愛や別れを象徴している。
時間の流れと共に少しずつ“クスシキ”な真実に気づく魂の姿が、切なくも美しい。
複雑であることの美しさを受け入れて
「クスシキ」は、Mrs. GREEN APPLEが持つポップと詩情のバランスを極限まで突き詰めた楽曲と言える。
恋愛、葛藤、自己否定、希望……これらが互いに矛盾しながらも共存し、それでもなお誰かを想うという純粋な感情が、音と言葉を通じてリスナーに染み渡っていく。
それはまるで、効くのかどうかも分からない“薬”のように、静かに、でも確実に、心の奥深くへ届く。
